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mituhaのこと。

言葉遊びのショートショート。

私には秘密がある。

底冷えの冬から一転、桜の花咲く春がきた。服装も靴も衣替えが進む。でも、鞄だけは年がら年中いつも同じ。他のも持っていないわけじゃないのだけど、変えられない私だけの秘密がある。

知りたい?

私のカバンの中には彼が住んでいる。シャー芯と同じくらいの彼。タケルくんは、元は180センチの長身で、1年生からスタメンのバスケ部のエースだった。頭も良くて人気者。当然、女子からの絶えない告白を遮り、幼稚園から幼馴染だった私を指名してくれた。

でも、付き合い始めのデート中、私が話に夢中で駅の階段を踏み外し、全治3ヶ月の靭帯損傷負ってしまった。その包帯ぐるぐる巻き姿に涙したタケルくんは、「俺がそばにいて守る! 」と頼もしい宣言した直後、見上げていた彼の顔がなぜかどんどん近くなり、そのままひゅるひゅると小さくなり続け、シャー芯サイズとなった。

その日から、私のトートバッグの内ポケットに住み始めた。幼馴染でずっと一緒でも、起きたてにおはようと言い、眠りに落ちる瞬間にされるキスにはちょっと気恥ずかしい気もちになる。そしてそれ以上にとても安心した。

朝、私が食べるトーストのひとつまみを彼が食べる。カフェオレスプーンにのこる薄茶色の雫を飲み、爪楊枝の先で歯磨きをする。学校のテスト勉強は、彼がカットワークの筆箱の隙間から私のわからないところを教えてくれる。吹部で失敗した日は、レシートを丸めたボールでダンクシュートを決めて見せ、絆創膏の指先を撫でて、大丈夫!と慰めてくれる。

そして今、ベットヘッドに置いたuni消しゴムの上で、エビのポーズで寝る彼はかすかな風のような寝息を立てている。こんなにも小さな彼に頼りっぱなしだけど、私には大きい。いつまでか分からないけど、このままでもいいな。

すーっと眠る彼に、コットンパフの布団をそっとかけた。

 

お題「私のカバンの中身」