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mituhaのこと。

言葉遊びのショートショート。

私には秘密がある。

底冷えの冬から一転、桜の花咲く春がきた。服装も靴も衣替えが進む。でも、鞄だけは年がら年中いつも同じ。他のも持っていないわけじゃないのだけど、変えられない私だけの秘密がある。

知りたい?

私のカバンの中には彼が住んでいる。シャー芯と同じくらいの彼。タケルくんは、元は180センチの長身で、1年生からスタメンのバスケ部のエースだった。頭も良くて人気者。当然、女子からの絶えない告白を遮り、幼稚園から幼馴染だった私を指名してくれた。

でも、付き合い始めのデート中、私が話に夢中で駅の階段を踏み外し、全治3ヶ月の靭帯損傷負ってしまった。その包帯ぐるぐる巻き姿に涙したタケルくんは、「俺がそばにいて守る! 」と頼もしい宣言した直後、見上げていた彼の顔がなぜかどんどん近くなり、そのままひゅるひゅると小さくなり続け、シャー芯サイズとなった。

その日から、私のトートバッグの内ポケットに住み始めた。幼馴染でずっと一緒でも、起きたてにおはようと言い、眠りに落ちる瞬間にされるキスにはちょっと気恥ずかしい気もちになる。そしてそれ以上にとても安心した。

朝、私が食べるトーストのひとつまみを彼が食べる。カフェオレスプーンにのこる薄茶色の雫を飲み、爪楊枝の先で歯磨きをする。学校のテスト勉強は、彼がカットワークの筆箱の隙間から私のわからないところを教えてくれる。吹部で失敗した日は、レシートを丸めたボールでダンクシュートを決めて見せ、絆創膏の指先を撫でて、大丈夫!と慰めてくれる。

そして今、ベットヘッドに置いたuni消しゴムの上で、エビのポーズで寝る彼はかすかな風のような寝息を立てている。こんなにも小さな彼に頼りっぱなしだけど、私には大きい。いつまでか分からないけど、このままでもいいな。

すーっと眠る彼に、コットンパフの布団をそっとかけた。

 

お題「私のカバンの中身」

いい知らせ

22時半を過ぎ、猫の額ほどの部屋の真ん中に、お布団をひいてぽそっと体を潜らた。ストレス発散には6分読書がいいとどこかの記事で読んで始めた寝る前の読書も2ヶ月目になる。

スマホYouTubeアプリで読書に最適なピアノBGMを選ぶと、聞いたことのない心地よいインストゥルメンタルが聞こえてきた。今日から読もうと選んだ『とりつくしま』の真新しいページをめくり、1行目を目で追い始めた途端、耳に馴染み始めたピアノの旋律を遮り、ウ ゙ウ ゙ウ ゙と短く電話の着信を知らせる。スマホいっぱいのモニターに大きく映された名前にどきりとする。瞬間出ようか出まいか迷って、出ることにした。

「久しぶりやな」

ちょっとくぐもった低音の声が聞こえてくる。

「久しぶり。どうしたん? 」

「最近、話してなかったなと思って。」

二つ隣の県に住む一つ年上のその彼は、一度いい感じになりかけ、バレンタインが近かったからチョコレートをあげたものの何だか気まずくなり、そのまま疎遠になった。

あ、ないんだな。ありよりのいい感じの距離だと思ってたのはこっちだけだったんだと、些細な悩みや元気ない時にあった電話もなくなった。それから1年半近く経つ。

なんの音沙汰もなく急に連絡が、しかも電話でくるのだから、いい知らせに違いないと思った。先越されたかと思って、不安になった。不安になるってことは、まだそんな気持ちがあるのかなと思ったり。相手にないなら意味がないと思ったり。

主な要件が分からないまま、休みの日もしんどくて家でグダーっとしてるよ、という至極他愛ない報告を終始している彼。単に、元気だったか?という確認と最近何してる?の確認だったらしい。昨年末、わたしがスマホの機種変更を機に、facebookもLINEもしなくなったから何の近況も分からなくなった。ただの安否確認なのかと解釈して落ち着いた頃、

「そろそろ寝るわ。また繋がれてよかった。そっち行く時、連絡するよ。」

って、そんな思わせぶり。なんかずるいな。でも、今日はなんか気分よく眠れそう。ドキドキしている気がするのは、ただの心臓のリズム。そう言い聞かせて目を閉じた。

エイプリルフール

「あーあ、また嘘つき損なっちゃったな」

エイプリルフール。子供の頃から「嘘なんてついちゃダメよ!閻魔さんに舌抜かれるわよ」と母親に言われて育ったからか、大人になってこの日くらいは嘘をついてもと思うのに上手い嘘も思いつけず、つくづく自分がつまらない人間な気がして無駄に凹む。

学生の頃は、「彼氏できた」とか「結婚しました」とか、嘘でも微笑ましいことを言ってみたりした。でも、さすがに三十路ともなると、そんなことを嘘でしか言えない現実に嫌気をさしてくる。テレビではマツコ会議も締めにはいっている。間も無く日付が変わる。結局何も言わないまま終わりそうだ。もう寝よう。テレビを消して布団に入ったとき、枕もとのiPhoneがピン、コーンとLINEの着信を知らせた。

"先輩、ちょっと緊急な報告がありまして。電話して、いいですか?

仕事の後輩の滝沢晴人からだった。珍しく絵文字もスタンプもない。何か大きなミスでもしたのかと、すぐさま"いいよ"とだけ返信をした。

LINE電話の着信を受けると、声のトーンが違う。いかにも大きなミスでもしましたという緊張感が受話器の向こうから伝わってくる感じがする。

これは真面目に聴かなくちゃ。と、寝ていた体を起こし、寝間着の上に白いカーディガンを羽織り、布団の上で体育座りをした。

「どうした? なんかあった?」

「えっと、その〜。」

「怒んないから、言って」

「ちょっと待ってください。言いますから」

「何、そんなもったいつけて。早く言いなさいよ」

「ぼくと、付き合ってください。」

その瞬間、壁掛け時計の長針と短針がカチッと合わさった。

 

 #エイプリルフール  #三十路 #嘘はつかない

 

 

 

あなたが私にくれたもの。

♫あなたがわたしにくれたもの、キリンが逆立ちしたピアス。あなたがわたしにくれたもの、フラッグチェックのハンチング…。

火曜の深夜オールナイトニッポンを聴いていると、昔懐かしい曲が流れてきた。

彼が私にくれたものはもっと大きかったと、暖かいカモミールティーを一口飲みながら思う。

同棲していた中で家族のようにはなれたらいおんハート #オールナイトニッポン気がしていたし、割と仲よかった。このままいったら同じ姓になる日も早いと思っていた。

でも、近づいた分感じる、ふとしたことの違いは大きい。楽しいことよりしんどい時、苦しい時、悲しい時、相手に自分ならどう接するか。どうしてくれると安心するか。もしも、と思い描く形と現実が大きく違う。恋愛ならその時限り、嫌なことでも片目を瞑ってまあいいと流せても、長い時間寄り添い続けるなら譲れないラインがある。恋愛と結婚の違いはそういうことなのかもしれないと今更思い至る。日に日に大きく、あんぱんのあんみたいにぎゅっと詰まっていた好きの気持ちが、本当にこの人でいいの?という不安にドーナツホール化して、ささいな言葉の意味の違いから別れた。

それでも忘れきれないのは、彼が私の中にいろんな音楽を落としていったせいだと呟く。"別れる男に花の名前を教えておけ"って誰かが言ってたけど、音楽だって充分だ。AMBITIOUS JAPAN・天体観測・キセキ・さくら・3月9日・ヒカリへ・WINTER SONG・えりあし・らいおんハート…数えたらきりがない。

別れて3年半。未だにこの曲たちがどこからか不意に流れてくると、駅で、スクランブル交差点で、大階段で、映画館で、ふと立ち止まり、あなたを探してしまいます。

 

 

 

お題「プレゼント」  #ドーナツホール #

桜の花の咲くころに。

3月の末になっても京都の春はまだ遠い。マフラーの隙間から首を撫でるように入り込む風が体温を奪っていく。早く暖かくなってほしいと思いながら、その冷たさが気持ちを冷静に引き締めてくれる気がする。トレンチコートの下は、仕事の日でも着ていかない漆黒のスーツに袖を通し、グレー地にクリアな白のストライプのネクタイをキュッと締めた。今日が人生で一番大切な日になるように。
だが、地下鉄で二条駅まで行く車内は、日曜日だからか、嵐山方面の嵐電に乗り換えるだろうリュックを背負った外国人やカジュアルな服装のカップルがちらほらいる程度で、最後尾の窓際で外に向いて立っていても、スーツに真紅の薔薇の花束を持った様はいささか場違いな気もする。それでも今日は特別な日だからこれと決めていたんだと、窓に映る自分の顔に言い聞かせ、恥ずかしさを中和した。
二条駅の改札を出て地上へ上がると寒さが一段階強まって、ぶるっと震えて体に力が入ってしまいそうになる。花束を潰さないように抱えて、足早に三条商店街に向かう。そこが近づくほど、緊張と会いたい気持ちが高まっていくのがよくわかる。おみくじのあるお寺の門をくぐり、"お待たせ。"と気持ちの中でつぶやく。
"岩佐家之墓"と彫られた前に腰を下ろし、"久しぶり。元気だった。"と語りかけ、柄杓で彼女を綺麗にぴかぴかにしてオシャレさんにしてあげると、喉の奥が支えるような緊張感が襲う。うまく言えるかな。わからないけど、ここまできたら、俺も男だ!ちゃんと決めないと怒られるぞ!と心を決めた。
「ちえ。遅くなってごめん。俺と結婚してください」
薔薇の花束を差し出すと、ふわっと暖かな風が吹いた。空から「待ちくたびれたよ。」と笑み声が聞こえた気がした。

視線をあげると、柔らかな春空に桜が一輪咲いていた。

#花と商店街と冬  #桜